本物だけが放つ、極上の緊張感が、この映画にある!!
小峯隆生(映画監督)

 ここではサム役デ・ニーロとヴィンセント役ジャン・レノがいかに銃を使いこなすプロの男たちなのか、それが分かる見逃してはならないポイントを解説します。おまけはパリのジャン・レノに電話直撃取材であります。

ポイント1 「倉庫での拳銃会話!」
 スペンス(ショーン・ビーン)が、デ・ニーロに「銃は何を使うんだ?」と聞く、それに対して、「何でも良い、使えれば良い」と答える。即ち、プロの仕事人は現地で手に入る銃を道具として使いこなせなければならないのだ。最後にはデ・ニーロは「1911」と答える。これは元米軍正式拳銃だった「コルト45オートM1911A1」の事だ。その正式に採用された1911年を拳銃の代名詞として使っている。渋い、渋過ぎるプロの喋りである。
 これに対して、レノは出かける前に机上にある銃をヒョイと掴んでいく。この時、見逃してはならないのが、レノはベレッタF92にマガジンがきちんと入っているかどうか確認し、予備弾倉を数個手にとって出かける。
 彼もデニーロと同じく銃を仕事の道具の一つとしているプロなのである。

ポイント2 「武器取引現場銃撃戦解説」
 ここで各自の戦闘射撃方法でプロ度が分かる。デ・ニーロはコルト45オートを抜くと同時に、ドンドンと常に2連射している。これはボクシングのワンツーパンチと一緒で、2発叩き込むことによって必殺を期している。
 デ・ニーロはまず最大脅威の狙撃者を射殺してから次の敵の処理を始めており、とても冷静なプロの対応をしている。
 一方、レノはベレッタF92の多弾数15発を活かし、銃撃を敵に浴びせながら、スペンスを誘導しながら遮蔽物に走りこむ、カバー&ファイヤ(遮蔽物に隠れ、そこから撃つ)を見せてくれる。さらに見逃してはならないのが、レノは両手首を僅かに斜めにして発砲している。これは遮蔽物から発砲する場合、この体勢の方が肉体の露出する面積を最小限に抑えられるのである。
 この二人のプロに挟まれて、素人だと路程してしまうのが、スペンスだ。彼はH&KMP5k短機関銃を持っていく。しかし、銃撃戦の恐怖に飲まれてしまい、大声を出しながらやたらと撃ち捲る。さらにレノに誘導されなければ、カバー=遮蔽物を取らずに撃ち続けるという失敗を犯している。スペンスは単に銃と軍隊の好きなマニアなのだ。僕はスペンスに親近感を覚えてしまうのだが、プロの中では足手纏いにしかならない。

ポイント3 「待ち伏せ戦闘場面技術解説」
 デ・ニーロは雇い主に「もっと人数が必要だ」と頼むが、拒絶されてしまう。もともと、真面目なデ・ニーロは襲撃隊で一人何役もこなしてしまう。
 まずは、赤信号で止めた先頭車輌に40mmH&Kグレネードピストルで榴弾を叩き込んで破壊する。戦いの火蓋を切る先陣の役割を果たす。
 次に2台目から出てきたボディガード相手にSIG551軍用ライフルを使って迎撃。これは射程距離短く、威力の弱い拳銃弾を使用する短機関銃と拳銃しか携帯してないボディガードに対して、凄まじい威力を持つライフル弾を発射する軍用ライフルで確実に射殺する銃撃を浴びせている。歩兵の鏡と言える役割である。
 次に逃走した車を後方から追撃。これを軽対戦車兵器LAWで仕留めている。ここで見逃してはならないのが、デ・ニーロはサンルーフから上半身を出して撃っている点だ。
 LAWは無反動砲と呼ばれ、反動を無くす為に前方に発射されるのと同じ量の燃焼ガスを後方に噴出する。マニュアルによると、発射する際は後方40m幅25mの区域に味方がいない事を確認してから発射せよと定められている。サンルーフからの発射は味方に安全である。ここまで説明するとあの名作『ランボー』で、輸送ヘリの機内からランボーはLAWを発射してソ連軍の装甲戦闘ヘリを撃墜している。本当はあの時点で後部貨物室に乗っていた救出された捕虜達は後方噴出ガスで全員死亡しているのである。
 そして、ケース奪還ではデ・ニーロはミニミ機関銃を肩から下げて、機関銃手として戦っている。まさに全ての兵器を使いこなすコンビニワンマンアーミーなのである。もっと臨時報酬を出してあげるべきである。

ポイント4 「凄まじいカーチェイス中の銃撃と運転についての解説」
 走行中からの拳銃による射撃はとても難しい。海外で様々な戦闘射撃訓練を受けるのが趣味の一つである僕はこの走行中射撃の訓練を受けたことがあります。揺れ動く車の中からいくら撃っても標的に当たりませんでした。そのうち教官は僕に拳銃から散弾銃に持ち替えさせて、訓練は続きました。トホホです。だからして、一発でタイヤをぶち抜くレノの銃撃は神業に近い。
 そんなジャン・レノ氏本人に聞いてみた。
小峯 あの烈しいカーアクションシーンは自分で本当に運転されていたんですか?
レノ 出来る限り運転するようにしてましたよ。
こ 主役の役者が危険ではないですか?
レノ 撮影の関係で自らハンドルを握って運転しなければならない必要があったからです。でもちょっと危険になると、直ぐにプロデューサーにとめられましたけどね(笑)
こ やはり、怪我をして欲しくなかったんだろうね。
レノ でも、僕は車を運転するのが好きなんですよ。かなり、旨く運転できる自信があるよ。
こ しかし危険になると、『スタントマン』にやってもらおうと言われましたね。
レノ でも、そうだな、全体で20%は自分で運転しましたよ。
こ それで十分です。その自分で運転した中で一番危険だったのはどのシーンですか?
レノ パリのトンネル内の撮影時でした。トンネルの幅が余り広くないですから、時々、車の側面が道路の端に食いこんで、擦れたりしました。
こ ヒョエー、怖くないですか?
レノ 少しね(笑)。パリのトンネルはかなり危険だったね。

 よく考えるとそのトンネルでダイアナ妃は事故死しているのである。俳優は大変である。
 レノ氏は時々、短い日本語を交えながら英語でインタビューに応じた。彼は売れない頃、パリの空港の店で働いていて、日本人観光客を相手にしていたので少し日本語がしゃべれるのだ。が、会話特訓の成果で英語はペラペラに喋れるようになっていた。
 プロの男を演じる彼等はプロ中のプロの俳優なのである。 


戻る