ジョン・ランボー、その戦闘技術のチェック・ポイント
柘植久慶/
インタビュアー 映画評論家 小峯隆生

 柘植久慶 ジョン・ランボーも所属していた米陸軍特殊部隊グリーン・ベレー大尉としてヴェトナム戦争を戦う。言うなれば、ジョン・ランボーと同じ視点を持っている。
 そのプロの目からランボーの強さを解剖してもらった。以下がそのインタビューである。


Q1すごかったですね、ランボーVS攻撃ヘリコプターの戦いは
 いや、凄い、流石にランボーだ。あの弾雨のなかで馬を駈って対空機関銃陣地まで一目散に走るとは   
 本来ならここでスティンガー対空ミサイルを使いたいところだが、無いのなら仕方がない。やはりランボーのように対空機関銃を確保するか、RPG-7 対戦車ロケット砲を探すしかないだろう。
 ヴェトナム戦争初期、ヴェトコンはヘリコプターからの攻撃に無力だった。ただ逃げ回るだけしか考えつかなかったためだ。
 ところがヘリコプターに対しては、逃げたら絶対に駄目である。恐怖心を克服し、少しでも遮蔽された地点に位置して動かず、ひたすら反撃すべきと言える。
 地上から反撃する場合、ヘリコプターが側面を向いているときがチャンスになる。側面機銃の射手を狙い、次いで機内に銃撃を加えるという手順を踏むべきだろう。

Q2ランボーナイフはあんなに大型では不利じゃないですか
 いや、大型が有利だ。それを十分に使いこなせるだけの体力が必要だが、常に大は小を兼ねるのである。
 そのための訓練は、素早い振りと相手に隙を与えない引きだと言えよう。一瞬が勝負である生命の遣取りでは、百分の数秒だけ先に斬りつければことは終る。それだけの速さがポイントとなる。
 引きもまた重要だ。斬りつけて外れたら、すかさず元の態勢に戻る必要がある。そのときが一番危険な状態になるのだ。相手のナイフでの反撃がくるし、手首を掴まれる危険性も生じてくる。
 ランボーがブーツナイフを二本、用意しているのも、有効だね。ナイフは絶対に複数持っているべきだろう。
 私は常に三種類持った。銃剣はハードに使え、その外にアタックナイフを装備した。残る一本は、当然アーミーナイフだ。

Q3様々な武器が登場しますが、見れて嬉しかった武器はありましたか
 ランボーの使用する武器がまた圧巻だ。ソ連製兵器では、ドラグノフ狙撃銃に注目して欲しいね。銃床を軽量化しているタイプで照準鏡がついているからすぐわかるだろう。歩兵の小銃が小口径になればなるほど、分隊に一人は狙撃手が必要となる。小口径銃は、200メートル程度までが命中距離だから、それ以上の敵を狙撃銃で斃す。
 ここではAKS-74突撃銃をはじめ、ソ連製の兵器が次から次へと登場する。カットが短く(ラピード・カッティングのため)じっくり見せてくれないのが残念だが、ヴァラエティの多さに驚かされる。
 しかし何と言っても嬉しいのは、特製ボウの存在だろう。
 「なんだ、弓か   」とバカにしてはいけない。こんな有効な武器が軽視されていること自体がおかしい。
 私がその威力を初めて認識したのは、1961年のコンゴ動乱のときだ、現地人兵の弓隊を使って、待ち伏せ攻撃し極めて有効だったことで記憶に留めた。逆に狙われると怖ろしい。
 おまけに国連軍のヘリコプターを撃墜した者までいたから、大いに驚いたものである。
 それをインドシナで活用した。山岳民族の兵士に、昔からの彼らの武器である弓を持たせてみた。私も練習してみたが、三本も射ったらコツが掴めた。
 これは待伏せ攻撃に有効で、音もなく先頭のポイントマンを二人まで斃せる。私が射ったとき、5秒で二射できた。命中した北ヴェトナム兵は一瞬足を止め、動きがストップモーションとなり、次いでスローモーションで崩れ落ちたのだ。その手応えは今でもはっきり残っている。
 ランボーが特殊任務にボウを持ってゆくことは、極めて頭脳的である。音もなく敵を攻撃できるため、ゲリラ戦法をとる際の最適の武器となるのだ。

Q4基地攻撃の時に使用する小型時限爆弾がすごく、便利そうに見えた。プロの目から見てどうでしたか?
 デジタル式携帯爆薬を見て、軍事の世界は日進月歩だと思った。実に軽量だし、その上に操作が容易である。
 ただしこのサイズからすると起爆薬としての使用となる。これ自体で大きな爆発が生じるのではない。
 だから注意して画面を見て欲しい。車輛のオイルタンクとか爆薬集積所にセットして、はじめて威力を発揮するのである。
 ただ問題は、10分に限定されている点だ。少しばかり時間が短い。脱出に時間的な余裕が欲しいときは、やはり最低30分くらい必要となるだろう。
 まあ、そうしたケースでは旧来のフューズを使用すれば、最大13.5時間の遅発信管がある。臨機応変で使い分けるべきか。
 いずれにせよ便利なものが出てきたと、デジタル式携帯爆薬には思わず関心してしまった。

Q5ランボーは追手を次々とやっつけますが実戦ではあんなにうまくいかないでしょう。
 いや、大丈夫です。牢における銃撃戦をはじめ、ランボーは随所に近接戦闘を展開する。
 なかでも下水道に逃げこんだランボーと、それを追うソ連軍将兵のあいだの追撃戦が面白い。
 ソ連軍は突入する直前、手榴弾を投げこんで、入口周辺を掃討する。これは基本どおりだ。待伏せがあったり、仕掛爆弾の脅威を除くためである。
 それから素早く一人、また一人と突入してゆくのだ。このときは銃撃を加えつつ、威力偵察の要領で進む。
 ランボーは速かに敵から遠ざかる努力をせねばならない。仕掛爆弾を用意するのも定石どおりだ。
 私がソ連軍の指揮官なら、上からガソリンをたっぷり注ぎ、手榴弾を一発投げこんでそれで終りである。
 洞窟での追撃戦も面白い。ランボーとトラウトマン大佐の相互支援が見ものだ。
 閉鎖状態にある地域での戦いは、相手を全滅させなければ勝利はない。そこで戦法も自らそうしたものに限定する。オール・オア・ナッシングだ。
 ランボーが自分の位置を次から次へと変えてゆくのは、兵力の少い側からしたら当然の戦法である。影を利用し、音で惑わす。
 こうしたときに特製ボウの存在が大きい。何しろ大きな音を発しないため、自分の所在を掴まれずに攻撃できるからだ。
 少人数の側が位置を把握されることをしてはならないのは常識である。一撃しては離脱という攻撃を繰りかえす。一人が幾人もいるように敵に錯覚を起させる、いわゆる変幻自在の術である。
 これは巧妙にやりえすれば、白昼でも敵を幻惑できる。ましてや洞窟のなかともなれば先住者の優位は疑うところなしだ。
 ロープ操作や仕掛爆弾?グリンベレーなら酔っててもあのくらいできるよう訓練されている。

Q6フルオート射撃でバリバリ撃ちまくるのは戦場で有効ですか?
 たしかにすくっと立上がり全自動で射ちまくるのは恰好いい。だが、これは映画の主人公だけの世界だね。
 第一、弾薬に限りがあるときは避けるべきだろう。セミオートで一発ずつ、確実に狙いたいところだ。大体、フルで射って思ったところに弾着するのは、最初の一発だけなんだ。あとは見当違いのところに飛んでることが多い。
 そうしたことに気づいたアメリカ軍は、M-16ライフルのフルオート機構を廃止、三発バーストに切替えた。一度引鉄をを下すと三発以上出ないわけだ。
 それにもう一つ、一発多く射つごとに自分の所在を敵に発見される危険が増す。だから私はセミのみで一発射撃をしては自分の位置を変えた。そのためにこうして生きている。

Q7負傷して自分で手当てするシーンが痛そーなんですけど、痛くない治療法はありますか?
 負傷したランボーが、傷口の応急手当をするところは凄かった。あのとおりだ。何かが体内に入っていたら、先ずそれを抜く。
 次が肝心だ。傷口を清潔にしておかないと戦場ではエソになりやすい。エソにやられたら自分の肉体が腐ってくるから、強力なアルコールで消毒するか火で焼く。
 私は常にウイスキーの小瓶を持っていて、気つけ薬と消毒用として備えた。被弾したとき早速使ったが、いや焼けるようだった。30秒くらい歯をくいしばっていた記憶がある。
 ランボーは弾丸の火薬を使ったが、アルコール類が何もないときは絶対あれだ。ただし心臓の悪い人はショック死するかも。
 それと贅肉のある人は傷が回復し難い。脂肪が邪魔をするんだ。ランボーなんか早いに違いない。私も昔、膝の上を五針縫って、一週間後に全力で5000メートル走った。

Q8ランボーと強敵スペツナズの素手の格闘柘植さんならどー闘いますか?
 体力に優る相手とは接近し組みとめられないことだ。だが我らがランボーは敢然と組みついてゆく。映画は見せ場が必要だから戦いは続くが、私なら30秒でケリをつける。
 地面に転がったとき、砂を掴んでそれを相手の目や口や鼻に放りこむ。ひるんだところを足首か膝、または下腹部に蹴りを加え、それから落着いて止めた。戦車を攻撃するように、視界を奪い機動力をまず止めるわけだ。

Q9ジョン・ランボーみたいな強い男は本当にいるんですか?
 いたよ、たしかに、ラリー・ドリング大尉がそれだ。グリンベレーの軍曹から大尉にまで昇進した男なんだ。
 シルヴァースター勲章を二度、ブロンズスター勲章を五度、それに名誉の負傷者に与えられるパープルハート勲章を四度にわたり受けている。ヴェトナムには志願して前後三回(3年)にわたり出かけた。物凄い勇士だったた。

柘植久慶作 (著者)
 〈獅子たる一日を〉 (飛鳥新社)
 〈クーデター〉 (集英社)
 〈戦場のサバイバル〉 (原書房)
 〈傭兵見聞録〉 (徳間書店)


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