"怨み節"のカタログ
増淵 健
ますぶちけん・映画評論家

 ランボーは“戦う機械”である。
“戦う機械”を倒すのは並み大抵ではない。だから、追う側は、それを上まわる量の機械を投入する。映画は“戦う機械”対機械集団の激烈なせめぎ合いに終始する。人間であるランボーが機械に変身し、押し寄せる機械たちを次々になぎ倒す。
 “戦う機械”の実力は画面でご覧の通りだが、打ち負かされる機械たちについては説明を必要とする。彼等がどんなに手ごわい敵か検証しておくことは、ランボーのしたたかさを知る上でもムダではない。
 1 ベル206Aジェット・レンジャー
 森林地帯へ逃げたランボーを峡谷に追いつめる群警察のヘリコプターである。
 1966年1月、テキサス州フォートワースで初飛行。翌年、ニューヨーク市警が1機購入している。値段は11万ドルだった。
 206Aは、強力なアリソン・エンジンを積み、軽くて機動性に富んでいる。この機体のもとになったのは、OH4Aという陸軍用に試作された機体だった。OA4Aは陸軍のテストに落第し、その代り、206Aが新しくつくられた。
 206Aの優秀な性能に気付いた陸軍は、あらためて2200機を発注し、ベル社も面目を保った。一種類のヘリが一度に受けた注文としては、最高の機数だった。イタリアのアグスタ社でも、ライセンス生産をしている。最大時速240キロ。機体全長8.74メートル。5人乗り。
 2 M16A1
 群警・州警・州兵が持っている223口径(5.56ミリ)のライフル。航空機メーカー、フェアチャイルド社傘下のアーマーライト社が開発した。
 61年に正式採用され、現在でも主力小銃として使われている。ベトナム戦争で活躍し、改良が加えられて、いくつかのバリエーションを生んだ。
 アメリカは、M16A1が開発される前、62ミリのNATO弾で西側の弾薬を統一することを提唱していたが、M16A1が出たとたん、宗旨変えした。つまり、それくらい優秀な銃だった。
 接近戦では223口径のような小口径高速弾が威力を発揮する。携行弾数も増加するので、兵士一人の戦闘能力が向上するというメリットがある。全長99センチ。重量2.86キロ。有効射程500メートル。装弾数20〜30発。
 3 M72
 州兵がランボー目がけて射つ66ミリ対戦車ロケット・ランチャー。戦車を攻撃するためのロケット砲である。グラスファイバー製で軽く、1人で持ち運び出来る。ロックを外して砲身を伸すと、照準鏡が立つ仕掛けになっている。照準鏡の前に圧電式の発射ボタンがある。これに狙われるランボーは戦車並みということになる。ベトナム戦争中、アメリカ軍にもっとも愛用された火器の一つ。
 4 ヒューズ500
 指揮所へリチャード・クレンナを運んで来るヘリである。63年に初飛行。65年に量産がはじまった。軍用はOH6Aと呼ばれ、操縦・整備が簡単と好評。制作費も安い。人員・貨物の輸送、地上攻撃、観測偵察、写真撮影を一機でこなせるヘリという国防省の要求に応え、ヒューズ社が開発した。同社を含む12社が設計図を提出し、その中から勝ち残ったのである。最終審査で三社にしぼられ、ベル社がまず脱落、つづいて、ヒラー社が落ちた。この時のベル社の試作機が、OH4Aだった。
 パイロット2人の他、4人の完全武装兵員または431キロの貨物を積むことが出来る。全長7.01メートル。最大時速230キロ。実用上昇限度4740メートル。
 ヒューズ社は、RKO映画の社長だったこともある故ハワード・ヒューズの会社である。
 5 M35A2
 洞窟から脱出したランボーが飛び乗る州兵のトラック。朝鮮戦争で使われたM211の後継者として、スチュードベーカー社と陸軍補給部隊が共同開発した。レオ社とカイザー・ジープ社が量産を担当し、60年代の初めまでに部隊配備を完了。ベトナム戦争の全期間を通じ、活躍した。現代戦は、一面、補給の戦いで、M35シリーズで編成された緊急輸送部隊を、アメリカ兵たちは“ジャングル・オリエント急行”と呼んだ。
 M35A2は、戦争後半にあらわれたパワー・アップ型で140馬力のコンチネンタルLD465-1エンジンを積んでいる。現在でも、陸軍と海兵隊の現用車である。全長6.7メートル。全高2.92メートル。最高時速90キロ。行動距離400キロ。
 運転席の上に回転式の機銃をつけた西部の幌馬車ムードのバリエーションもある。
 6 M60
 ランボーが奪ったM35A2が積んでいた機関銃。クライマックスで乱射する。
 M1917、BARなどに代わって、57年2月に正式採用された。分離式リングベルト(弾帯)、起倒式二脚、直動銃床などにドイツ軍のMG42、FG42の影響が見られる。
 機関銃は目的によって、攻撃用・防禦用・車輌用の三種に大別されるが、M60はどの目的にも使える多用途機関銃である。ベトナム戦争では、ヘリに積まれ、猛威をふるった。現在も、ブリッジツール社、GMイングランド工場で生産がつづけられている。
 全長1.105メートル。重量(二脚時)10.5キロ。使用弾薬7.62ミリNATO弾。装弾数1000発。
 200発ごとに銃身を交換しなければならないが、石綿製の手袋をはめないと火傷をする・・・・・・戦場の兵士たちの悩みのタネ。

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 敵はこれだけではない。たとえば、バイク(ヤマハXT250)を奪って森林地帯へ逃げるランボーを追う群警のパトカー。峡谷では206Aの機上からライフルが彼を狙う。M35A2で街へ向かうランボーに州警のパトカーがつきまとう。
 群警のパトカーはフォード・トリノのようだ。ライフルはウインチェスターM70か?州警のパトカーはシエビー・モンテカルロだろう。
 その他、群警の追跡隊の中にAR15をもった署員がいたような気がするが、未確認。メカニズムに強いキミに検証をお願いしたい。いずれにしても、ランボーが敵にまわしたのは、現役パリパリの機械たちである。
 そして、その多くは、ランボーににがにがしい過去の記憶を運んでくる類のものだった。
 記憶の中身がなにかは、映画をご覧になったキミが先刻ご存知のことである。
 「ランボー」のテーマは、“戦う機械”に変身させられた男の“怨み節”だ。
 彼を抹殺しようとした機械たちの素性を知ることで、“怨み節”の意味がより明らかになる。あえて、一見無味乾燥な武器カタログで、責めを果たした次第・・・・・・。

〈参考文献〉 月刊コンバット・マガジン



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