見逃しそうだけど見逃してはいけない
アクション・エキサイト・ポイント 〈小峰隆生・映画評論家〉

POINT-1
 2人の持つ銃の違いが性格の違いを現している。
 ダニー、S&W・M19(38口径・装弾数6発)の6インチ銃身。普通は私服の刑事は2インチの短い銃身のリボルバーを右腰のヒップホルスターか、肩からショルダー・ホルスターで吊っていればいいが、監督はこの作品を現代の西部劇にしたかった。そのため、わざわざ、6インチの長い銃身のリボルバーを西部劇の保安官のように、クロスドロー(体の左前にホルスターをつけて右手を体の前でクロスさせて銃を抜く方法)の位置に置いている。クロスドローの欠点は抜き射ちが遅くなる。それと、真正面の相手にとって銃が抜きやすい位置にあるので、自分の銃を相手に抜かれて、殺される場合がある。西部では「ウイドウ・メーカー(未亡人製造器)」と呼ばれていた。こんな位置に銃を持ち続けるダニーは自分の方法を押通す頑固で古いタイプだという事がわかるようになっている。
 一方、メルの使う銃、ベレッタ92F(口径9ミリ。装弾数15発)。85年にお兄さんの92SB-Fは米軍の次期正式拳銃に指定されて以来、流行の最先端に躍り出た銃。米軍に採用されたというのは、パリダカールラリーで10年連続優勝した車のメーカーと同じくらいの栄誉がある。コントロールしやすいマイルドな反動は正確な速射ができる。
 麻薬の取引のシーンで、いきなり、後から現れたショットガン男にも3、4発ずつ、ブチ込んでくれる。しょっぱなから、多弾数速射を見せてくれるのは嬉しい。ベトナム戦争の戦場で彼は数々のクロスコンバット(近接戦闘)を経験した。そのために同時に多数の敵に対した時、多弾数の有利さを体で知っている。その辺りからも彼がベレッタを選んだ理由がある。銃を抜いたら最後、敵を射殺する。それは自分が生き残るための彼の習性だ。


POINT-2
 駐車場でメルが自分の銃をダニーに渡す時にちゃんとマガジンと薬室に装填されている実弾を抜いて渡している。
 これはハサミを他人に渡す時に刃を相手に向けないで渡すのと一緒。相手の安全を考えるエチケット。ちょっとした事だが細かい配慮がウレシイ。


POINT-3
 《メル・ギブソンのファッション》
 彼の服装はジャンパーの下に、だらしなくシャツの裾をGパンの外にだしているが、これは考えてやっていること。彼は銃をホルスターを入れずに、直接、ベルトに差している。これを隠すために、シャツを外に出している。コンバット・シューティングにも、ステップ・イン・ザ・シャツという撃ち方がある。これは、シャツを左手で捲くり上げながら、右手でベルトに差した銃を抜いて撃つというトリックシューティングのひとつ。いかにも、銃をもっていませんよーという顔をしておいて、いきなりシャツを捲って、ぶっぱなす。
 メルは状況によって、いつも背中に差しているベレッタを、体の前に位置を移動させている。プールのある金持ちの家に踏込む時、さり気なく、ベレッタを前にずらしている。この方が、早く抜ける。突然、部屋の中から、敵が出てきた時に、対処しやすい。
 だけど、実際にモデルガンでもいいから、1日、ベルトに直接、差して街を歩き回ると、腰骨の辺りがメチャクチャ痛くなってしまう。できれば、銃はホルスターに入れて持ち歩いた方が骨が痛くなりません。


POINT-4
 着弾の芸が細かい。
 娘の葬式を海辺でやっている時に、ヘリコプターから狙撃されるシーン。ここで、やられる人は寸前にミルクの紙パックを持つ。その直後にヘリからM16に狙撃される。胸の弾着が爆発するのと同時に紙パックのミルクにポツンと穴が開いて、ミルクが飛出す。弾丸が貫通した事がわかる。芸が細かい。実際にあの距離で、223口径の高速弾をくらえば、ミルクパックは爆発したように飛散する。近くにいるダニーは血まみれならぬ、ミルクまみれになってしまう。そこは映画。かっこよく見せるためには穴一つで、射殺された事がわかります。


POINT-5
 役者はただ殺される演技をしているだけではない。
 街で聞込み中の、メルがショットガンで撃たれるシーンがある。あの時、彼はスゴい事にショーウインドウのガラスにふっ飛びながら、右手でベレッタを抜いている。本能的に反撃する事が体にプログラムされている。だから、気がついた時に、直ぐに敵を求めて、ベレッタを街路に向けている。


POINT-6
 室内シューティング・レンジのシーン。ダニーはS&Wでマンターゲットの胴体にバラバラに仕込んでいる。さらに、抜き撃ちで、1発で眉間をブチ抜いて満足している。ウーン、あんたは古い。
 それに対して、メルはマンターゲットには胸と頭に均等にヒットさせている。抜き撃ちではかならず、一度に2発以上、発砲している。
 昔は敵を1発で倒すのが良いとされていたが、最近は麻薬の常習者の中には心臓をブチ抜かれても、まだ死なないゾンビ人間が実際にいる。薬で感覚が麻痺していて痛感がない。そのために、胸にヒットしたので、安心して近付いた警官が逆襲をうけ、死亡するケースが増えた。こんな、ドキチガイ野郎をブッ殺すには、頭を撃つ、ヘッドショットしかない。
 だから、メルのように胸と頭に撃ち込むのがいい。普通は胸に2発、頭に1発撃つ。または2発ずつ。今は、1発で射ち倒すより、短時間に多数の弾を撃ち込むことが有利とされている。


POINT-7
 砂漠の取引のシーンでメルが使用する狙撃銃は映画史上、初の登場。お名前は『HK・PSG-1』、西ドイツ生まれ。対テロ部隊用に開発された狙撃専用銃。おそらく、現在で最も高性能のリーサル・ウェポン。600m離れた人質を取ったテロリストの頭を狙撃するために作られた。
 口径7.65ミリ、装弾数5初または20発。重量7.2kg、全長1,208ミリ。作動方式が、セミオート。引き金を引くだけで、撃てる。これは、もし、人質を取ったテロリストに初弾を外した時、ボルトアクションだと、次弾を発射するのには時間がかかる。その点、セミオートだと、スコープから狙ったまま、引き金を引けて、すばやく、次弾を発射できる。
 こう考えると、あの砂漠のシーンで、このライフルを使用するのはベストチョイスだと言える。ベレッタ1丁で砂漠に行くのは死にに行くのと同じだからである。
 1人の敵に確実をきすために、セミオートの利点を使って、2発、撃ち込んでいる。さすが、ラオスで強風の中、1,000ヤードから狙撃できる野郎だ。


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