ナイトストーカーズのパイロットによる1993年10月3日及び4日の話 ゲリー・イッゾ大尉(スーパー65)より この数日の間に、多くのパイロット達が私のところにやってきて映画「ブラックホーク・ダウン」を見たかどうか私に質問しました。映画のことについて話すのは構わないし、私の友人達の英雄的行為や勇敢さを話す機会を歓迎します。私は映画や私の印象についていくつかのコメントをここに記します。また、いくつかのFAQにも答えたいです。 第一に、私やミッションで飛んだ友達の多くは、映画が非常に素晴らしい出来だと思いました。映画は技術的に正確であり、物語も正確です。言い換えれば、装備や専門用語、対話などは全て正確です。物語が正確であるため、ミッションを通して我々全員が感じた感情や緊張感がとても如実に捉えられています。トップガンのように漫画的でなく、ファイアーバードのように過度でもありません。映画脚本家は1人の人物に2、3人の人物を統合しなければなりませんでした。しかしそうでなければ、あまりにも多い主要な登場人物を描写しなければならないため、そうする必要があったのでしょう。 さらに、実際のミッションではその日およそ20機もの航空機を飛ばしていました。映画の中では4機のブラックホークと4機のリトルバードが登場します。映画撮影に実際と同じ数のヘリを委ねる余裕は部隊にはありません。しかしながら、映画のマジックによって実際と同じ機数である印象を受けました。我々の混合部隊は以下の通りです。スーパー61 - 先頭のブラックホーク、スター41-44 リトルバード攻撃機、スーパー62 - 後尾のブラックホーク。これらのヘリが襲撃部隊を編成していました。彼らの任務は建物に突入し、その日の目標である人物を拘束することでした。スーパー61が撃墜され、クリフ・ウォルコット准尉長とドノヴァン・ブライリー准尉長両方とも死亡しました(彼らは私と3人で飛行場の部屋を共有していました)。スター41が墜落地点に着陸し、パイロットであるキース・ジョーンズ准尉長が二人の生存者を引きずり出してヘリまで運び病院へ向けて離陸しました。キースは映画の中でも再びその役を演じています。スーパー62はランディ・シュガート一等軍曹とゲイリー・ゴードン曹長という二人のデルタ部隊のスナイパーを乗せたブラックホークでした。彼らは墜落地点2に投入されました。ゲイリーとランディを降下させた直後、スーパー62は胴体に対戦車ロケットの攻撃を受けました。ヘリの右舷全体が開いていたため、右舷ドア銃座にいたスナイパーの脚を吹き飛ばしました。ヘリは戦闘区域を脱出し、飛行場で不時着しました(これは映画では描写されていません)。 次はレンジャー妨害部隊です。これは4機のブラックホーク:スーパー64(マイク・デュラント准尉長、レイ・フランク准尉長)、スーパー65(私、リチャード・ウィリアムス大尉)、スーパー66(スタン・ウッド准尉長、ゲイリー・フラー准尉長)、スーパー67(ジェフ・ニクラウス准尉長、サム・シャンプ准尉)から編成されていました。 妨害部隊の任務は目標建物の四隅に配置され、ソマリ族の増援部隊が通るのを阻止することでした。映画の中でも上空からその強襲を捉えた短いシーンがあります。私のヘリは画面の左下にある角に描写されています。このシーンはは映画の中のたったワン・シーンです。強襲が完了するとともに、ブラックホークが目標区域から離脱する際の言葉が聞こえます。「...スーパー65離脱、援護位置に...」という言葉が聞こえたら、それが映画の中で私にとって最も誇らしい場面です。また、ホバリングしているブラックホークがRPGによる攻撃を受ける短いシーンがあります。私も1、2発の攻撃を受けましたが、RPG砲弾やその射手は見えず、爆発音のみ聞こえました。他のいくつかのヘリは反撃しましたが、我々は反撃しませんでした。誤解しないでくださいね。私はこの任務での自分の役割を自覚しています。私の仕事は「プライベート・ライアン」の揚陸ボートの操舵手と同じです。部隊を正確な場所に無傷で運ぶことです。乗組員や私にそれができたということをとても誇りに思います。グレナダやパナマ、そしてソマリアでそれができた度に、第二次世界対戦の爆撃手に共感を持つことができました。周りで起こっている混乱を全て無視しなければならず、完全に任務に専念しなければなりません。つまりそれは、レンジャーができる限り素早く安全にロープを滑り降りることができるようにするために、できるだけヘリを安定させて待機させることです。 はいはい、私の事はもう十分ですね。スーパー64もまたRPG(ロケット推進擲弾)で撃ち落されました。彼らは飛行場に帰還しようとしましたが、目標区域から1マイル離れた場所でテール・ローターを損失しました。彼らは敵勢力領域の中でも最悪の場所に墜落しました。この時の映画の中の言葉は実際のミッションの録音テープの言葉を引用したように思われ、私がその状況を思い出してしまうほど正確です(映画のなかでこのシーンは私にとって観ていて最もつらいシーンです)。マイク・デュラントは墜落とその後の銃撃戦で生き残った唯一の乗組員であるため、この地上での戦闘は彼によって描写されています。ここでゲイリーとランディは死後の名誉勲章を授かりました。 目標地区のレンジャー部隊に再び補給物資を与えるために20時にスーパー66が呼ばれました。数人のレンジャーは弾薬が完全に尽きており、接近戦でソマリ族民兵と戦っていました(これも映画では描かれていません)。スタンとゲイリーはヘリをオリンピック・ホテルの上空にホバリングさせ、操縦席ドアから身を乗り出して積荷ドアに移りました。このようにして、彼らは弾薬や水、医療物資を中の者に投下することができました。ヘリの左舷射手は30秒で1600発もの弾をミニガンで撃ちました。彼は恐らく8〜12人のソマリ族民兵を殺したでしょう。右舷射手が負傷しており、また補給物資を投下する役目の二人のレンジャーが後ろに乗っていたので、目標地区から離脱した後飛行場に向かいました。着陸してから彼はヘリに40〜50発もの弾丸を受けており、変速機からオイルが漏れている事を知りました。スーパー66はその夜で任務から外れました。 ヘリの最後のグループは4機のMH6ガンシップと命令指揮ブラックホーク、そして捜索救難「ホーク」です。MH6がバーバー51-54、命令指揮がスーパー63、捜索救難がスーパー68です。 映画の中では、ガンシップは一度だけ攻撃しています。実際には夜通し絶え間無く攻撃しました。それぞれのヘリは6回も弾薬を補給しました。計算すると7万〜8万発ものミニガンの弾を撃ち、合計90〜100発ものロケット弾を撃ったことになります。彼らの目的は目標地区に侵入してくるソマリ族を阻止すること、ただそれだけです。ガンシップの8人のパイロット全員が銀星章を授与されました。彼らはそれだけの価値のある働きをしたのですから! 次はスーパー68です。この乗組員の行動は非常に正確に描写されています。唯一違うのは、実際には彼らはRPGをローター・ブレードにくらったことです。これによりメイン・ローターの翼桁が半円にわたって吹き飛ばされてしまいました。しかしそれでもブレードの長さが十分足りていたため第一墜落地点に衛生兵とレンジャーを降下させることができました。その後に彼らは飛行場に向かいました。メイン変速機とエンジンオイル冷却機が爆発により破壊されていたことを彼らは知りませんでした。彼らが飛行場に向かっている最中に、メイン・ローターのギア・ボックスから7ガロン全てのオイルと、それぞれのエンジンから7クォーツ全てのオイルが流出していました。油圧が全てゼロになったと同時に彼らは着陸しました。それからエンジンを切り、予備のヘリに走って再び戦闘に参加するために離陸しました。彼らは飛行場に着陸したスーパー62の緊急医療搬送のちょうどその時に離陸しました。このヘリのパイロットはダン・ジョラータ准尉長とハーブ・ロドリゲス少佐でした。両者はその後、殊勲十字章を授与されました。現在ではロドリゲス少佐は陸軍を退役し、テネシー州クラークスヴィルの中学校で私の妻と一緒に教師をしています。 最後にスーパー63こと命令指揮ブラックホークです。このヘリの後部座席に私の大隊の指揮官であるマシューズ中佐と、地上部隊全般の指揮官であるハレル中佐が乗っていました。映画では、地上部隊の兵士が緊急医療搬送を求めていたシーンがあります。戦闘のこの時点で5機のブラックホークが撃ち落されたり、激しい攻撃にさらされたためもう飛ぶことができず戦線離脱していました。2つの攻撃部隊と4つの妨害部隊「ホーク」のうち、残されていたのは私とスーパー67だけでした。負傷兵を救出するためにハレル中佐が我々をそこに送りこむのだと完全に覚悟していました。私は弾倉を手に取り、ピストルとM16の薬室に装填しました。建物の屋上で片輪だけでバランスをとりホバリングするのが一番良い方法だと確信しました。そうすればレンジャーが負傷兵をヘリに乗せることができるかもしれない。我々が激しい銃撃を受ける事は覚悟していました。そして銃撃にさらされている中で彼らを救出に向かうのだと心の準備をしようとしました。私の友達は全て墜落して倒され、そして今度は我々の番なのだと思いました(土壇場は適切に使えば極めて有効な道具になります)。とても率直に、我々は良くても撃ち落されに、悪くて殺されに行くのだと本当に思いました。我々は5機のヘリを失うのを今まで見てきました。残りの2機は何をしてたんだ?私は最悪の事態を受け入れました。なぜなら少なくとも、もしもの場合はガリソン将軍が負傷兵の家族に我々があなた達の息子、父親または夫を救出するためにできること全てをやったと伝えてくれるだろうと思ったからです。私達は残りの我々2機のヘリコプターを喜んで送りこむつもりでした。私にとって幸運にも、ハレル中佐はヘリコプターを使うチャンスが過ぎたのだと悟りました。決断は戦車と装甲兵員輸送車を目標地区まで突き抜けさせるというものでした。また再び、映画の中の会話が実際のものに近くなります。私がどれだけほっとため息をついたかわからないでしょう。結局私は日の目を見るつもりだったのだろうかと思ったのを覚えています。 私は少し夢中になっていましたね。本当はこんなにたくさん書くつもりはありませんでした。人々は私に、あの映画を観てフラッシュバックしてしまわないかと聞きます。あの日の事が心から消え去ることは無いのでフラッシュバックと呼ぶには相応しくありませんね。 あなたがこの映画を見た時に、あの日自らの心と戦い抜いたレンジャー達に誇りと畏敬の念を持つ事を私は望みます。私を信じてください、彼らはノルマンディの海岸で戦った若者達と同じ境遇で生まれたのです。レンジャーの小隊リーダーであるトム・ディトマソ中尉が私のヘリに乗った時、彼は我々が素晴らしい仕事をしたのだと言いました。私はこれ以上の賞賛を想像することができませんでした。私は妻と子供を愛しています。しかし私がかつて行った偉大なことは1993年10月3、4日にタスクフォース・レンジャーとしてナイトストーカーズのパイロットであったことです。 これを読んでくれたことに感謝します。私は映画や実際の戦闘に関して誰でも持っているかもしれない全ての疑問に答えることを楽しみにしています。これでいくらか心の空白を満たすことができると思います。ありがとうございました。 ゲリー・イッゾ大尉(スーパー65) 「NSDQ」ナイトストーカーズ・ドント・クワイト 以下、訳者注記 ※FAQ Frequently Asked Questions の略。誰もが疑問に思うために、頻繁に出てくる質問。この記事ではFAQの文章を割愛してあるらしい。 ※ホバリング ヘリコプターが空中で停止している状態。 ※RPG Rocket Propelled Grenade(ロケット・プロペルド・グレネード)の略。旧ソ連製の対戦車ロケット。無反動砲。 ロケット弾発射時の反作用を打ち消すために後方に大量のガスを噴出する。このガスは高温のため、人がガスの噴出を受けると死亡する。また背後に壁がある場合もガスの影響で射手自身が危険にさらされる。 「ブラックホーク・ダウン」ではソマリ族の民兵がRPGを肩に構えて上空のブラックホークを攻撃したが、実際にこれを行うとガスが地面で妨げられ射手自身が死亡する。実際にはソマリ族民兵はRPGの後部にじょうごを取り付けたり、地面に穴を掘りその穴にガスを逃がして撃ったらしい。詳細は小説参照。 ・関連サイト:Weapons SchoolのRPGのページと無反動砲のページ ※グレナダ →グレナダ侵攻:東カリブ海にある島国グレナダで軍事クーデターが発生し、革命政権が樹立された。クーデターの裏でソ連とキューバが援助をしており、共産化の一大拠点を築こうとしていた。これに対し1983年10月、レーガン大統領がグレナダの法秩序と民主主義の回復のため米軍を派遣し軍事行動を起こした。 ・関連サイト:Special Warfare Net Database War Historyのグレナダ侵攻をクリック ※パナマ →パナマ侵攻:1989年、ブッシュ大統領がパナマのノリエガ将軍を麻薬密輸容疑で逮捕するために米軍を派遣し軍事行動を起こした。 ・関連サイト:Special Warfare Net Database War Historyのパナマ侵攻をクリック ・関連サイト:パナマ共和国情報収集基地のパナマ侵攻のページ ※テール・ローター ヘリコプターの尾翼についている回転翼。空中で飛行するヘリコプターがメイン・ローターのみだとすると、その回転の反作用(トルク)で機体はメイン・ローターの回転と逆方向に回転してしまう。それを打ち消すために尾翼にローターがある。また、テール・ローターを操作することで機体の方向を左右に動かすことができる。 映画の中ではブラックホーク2機ともテール・ローターを損失したため機体が高速回転し操作しきれなくなり墜落した。 ※マイル ヤード-ポンド法における長さの単位。距離にのみ用いられる。1マイルは1760ヤードで、約1609.344メートル。記号 mil または mi〔「哩」とも書く〕 ※捜索救難 →SAR:Search And Rescue(サーチ・アンド・レスキュー)の略。映画ではSARだったが正式にはCSAR:Combat Search And Rescue(コンバット〜/戦闘捜索救難)である。映画の中でこのヘリから降下した衛生兵はデルタではなく空軍のPJ(パラジャンパー)である。 ※ローター・ブレード 回転翼の翼そのもの。 ※メイン・ローター ヘリコプターの機体上部についている主回転翼。ヘリコプターが飛ぶために最も必要なもの。 ※翼桁 翼にかかる力の大部分を担い、この力を胴体に伝える役割をする。 ※ガロン 液体の体積の単位。イギリスでは10ポンドの水の、特定の状態における体積を一ガロンとし、約4.546リットル。アメリカでは231立方インチのことで、約3.785リットル。日本では、後者を使用。7ガロンは約26.5リットル。 ※クォート ヤード-ポンド法で、液体の体積の単位。四分の1ガロン。約0.946リットル。コート。7クォートは約6.6リットル。 ※緊急医療搬送 →MEDEVAC(メディヴァック):恐らく Medecal Evacuation(メディカル・イヴァキュエイション)を略した造語。軍事用語。 参考:「退避しろ!」という時には"Evac!"(イーヴァック!)と言う。 関連映画:「ザ・ロック」の序盤、海兵隊反乱分子がVXガス保管庫でミサイルを誤って落とした時のデビッド・モーズ。 ※装甲兵員輸送車 →APC:Armored Personnel Carrier(アーマード・パーソネル・キャリアー)の略。 ※ノルマンディ →ノルマンディ上陸作戦:第二次世界対戦で連合軍が大規模な戦力を投入してフランスのノルマンディ海岸に上陸しドイツ軍と激しい戦闘を繰り広げた。ノルマンディ上陸作戦の有名な映画として「プライベート・ライアン」があるが、ノルマンディ海岸の全てがあのような激戦になったわけではなく、映画は例外的に大打撃を受け1000人もの死者を出した「血のオマハF地区」に上陸した第一歩兵師団を描いている。全体的な作戦を知るには映画「史上最大の作戦」を、空挺部隊の作戦を知るには長編テレビ映画ドキュメンタリー・ドラマ「バンド・オブ・ブラザース」をご覧あれ。 関連映画:「史上最大の作戦」「プライベート・ライアン」「バンド・オブ・ブラザース1〜10話」 関連PCゲーム:メダル・オブ・オナー ※タスクフォース・レンジャー 1993年ソマリアのアイディード将軍を逮捕するための軍事行動で構成された米軍の混合部隊。つまり「ブラックホーク・ダウン」の米軍部隊のこと。 ・関連サイト:小説「ブラックホーク・ダウン(強襲部隊)」公式サイトの「アメリカ軍の精鋭たち」のページ ※NSDQ 第160特殊作戦航空連隊、通称ナイトストーカーズの標語"Nightstalkers Don't Quit"の略。言葉の意味は「ナイトストーカーズは諦めない」。映画にはこの言葉は登場しないが小説の最後の部では重要なキーワードであり、その部のタイトルになっている。 ・関連サイト:Special Warfare Net Database Special ForceのTask Force 160をクリック ・関連サイト:第160特殊作戦航空連隊ナイトストーカーズ公式サイト |